預貯金は,法律上は,銀行等との間の消費寄託契約に基づく預貯金払戻請求権という金銭債権にあたります。そして,金銭債権は,金銭債権・債務は,一般的には,遺産分割を待たずに,相続開始と同時に,当然に各共同相続人が,その相続分に従って,分割して取得するものとされています。そのため,かつては,預貯金は遺産分割の対象とはならないとされていました(最高裁昭和30年5月31日第三小法廷判決等)。でも,この解釈は,預貯金を遺産分割の調整に利用することができず,不便・不平等な結果となっていました。
ところが,最高裁平成28年12月19日大法廷判決は,判例を変更し,
「共同相続された普通預金債権,通常貯金債権及び定期貯金債権は,いずれも,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく,遺産分割の対象となるものと解するのが相当である。」
と判示して,ゆうちょ銀行の貯金が遺産分割の対象となることとしました。また,最高裁は,その後,信用金庫における定期預金や定期積金についても遺産分割が必要であると判示しています(最高裁平成29年4月6日第一小法廷判決)。そのため,現在は,遺言書がない限り,遺産分割協議や調停・審判を経なければ,預貯金を分割取得することはできなくなっています。
ところで,平成31年の相続法改正により,遺産分割前に置ける預貯金債権の行使という制度が新設され,遺産分割前であっても,各相続人は,
・相続開始時の預貯金の残高の3分の1×法定相続分
までの金額(ただし,150万円が上限)を引き出すことができるようになりました。そして,引き出した相続人は遺産の一部の分割したとして取得したものとみなされます(要は,遺産の先払いと扱われるということです。)。