1 遺言無効と生前贈与の無効の主張を退けた事例
相談内容
被相続人である母の子が2名(依頼者と相手方)いたところ,依頼者が被相続人の面倒を見ていたため,自宅不動産の生前贈与を受け,さらに依頼者が遺産をすべて受け継ぐ内容の公正証書遺言が作成されていました。
そうしたところ,相手方が,その内容を不服として,遺言が無効であることの確認を求め,不動産の生前贈与の無効と損害賠償を求める裁判を起こしてきました。
依頼後
依頼者は日記を付けていたので,それを元に,面倒を見ていた当時の状況や不動産の贈与を受けた経緯や状況,遺言作成に至った状況,作成時の状況を丁寧に主張立証し,さらに,筆跡鑑定や認知症に関する医師の意見書を作成するなどして,いずれの裁判も相手方の訴えを退けました。
コメント
この裁判は,相手方は,遺言の無効に関して考え得るがほぼすべての主張をして来ました。弁護士の方で,色々と戦略を立てたり,立証方法を考えて実践したりと言うことはありましたが,何よりも,依頼者ご本人が日記を付けていたということが大きなポイントでした。
2 遺産分割と相続分の譲渡
相談内容
母が亡くなり,依頼者を含めて5名の子が相続人となりました。依頼者が母の面倒を見ていたことから,母の遺産を可能な限りすべて,依頼者が取得したいという内容でした。
なお,遺産は不動産の持分と預貯金でした。
依頼後
依頼者の尽力もあり,大半の共同相続人から相続分の譲渡を受けました。話合いができない相続人について,遺産分割調停の申立をし,最初の期日で若干の代償金を支払うこうことで調停が成立しました。
なお,その後は所有権移転登記と預貯金の解約手続も当職の手配で行っております。
コメント
この案件では,大半の共同相続人から相続分の譲渡を受けられたことです。私が受任する際に最も気を遣うのは,相手方への最初のアプローチ方法です。決まり切った受任通知を相手方に送るのではなく,きちんと依頼者からヒアリングをし,想定される相手方のこだわりを踏まえて,文面を作成します。併せて,依頼者にも,別途相手方にアプローチをしてもらい,今回はそれが功を奏したと思っています。
3 相続人が遺産をすべて取得するという内容の遺産分割協議
相談内容
夫が亡くなり,その財産(自宅と預貯金)の相続手続をしたいという相談で,相続人は妻である相談者とその一人息子です。
息子は夫の葬儀にも現れず,連絡が全くつかない状況でした。息子には色々と迷惑をかけられていたし,相続財産も,相続人の生活に必要不可欠な自宅と生活資金としての預貯金があるだけとのことで,すべての財産を相続したいという内容でした。
依頼後
さらに話を伺ったところ,亡くなった夫が,息子に対して,相当金額のお金を貸し付けていたことが分かりました。
受任後,まず,息子に対して,相談者ができればすべて引き継ぎたい意思であることを記した受任通知を発送したところ,息子から当職宛に連絡があり,法律上の権利にしたがって相続したいという話をして来ました。これに対して,夫の息子に対する貸金のことや,相談者である母親の生活資金のことを話し,相談者がすべて相続したいという意向を丁寧に伝えたところ,考えさせて欲しいと言うことになりました。
そうしたところ,数日後に,息子の方も当方の意向を受け入れるとのことで,遺産を相談者がすべて相続するという内容の遺産分割協議が成立しました。
コメント
このケースは,貸金自体は特別受益としても,息子の具体的相続分がなくなるほどのものではありませんでしたが,相談者と息子の関係性を考えて,今後発生するであろう扶養義務のことなどの点からも,相談者がすべて相続するという内容の遺産分割は息子にとってもさほど不利ではないことを根気強く話して,最終的には納得をしていただきました。
小細工なしのストレート勝負で,依頼から数ヶ月で決着という結構な成功事例でした。
4 すべての財産を相続させるという遺言書の作成とその執行
相談内容
会社の創設者で,その会社の株式の大半を所有している方から,遺言書作成をしたいとのご相談を受けました。子どもが2人おり,長男が会社の経営をしていることから,事業の継続のため,すべての財産を長男に相続させる旨の遺言書を作成されたいとのことでした。
依頼後
もうひとりの相続人に対しての生前贈与は特にないとのことだったので,ある程度の財産をその相続人にも残すようアドバイスをしましたが,依頼者の意思が硬かったため,依頼者のお考えのとおりの遺言書を作成し,当職らのを遺言執行者としました。
その数年後,遺言者が亡くなり,遺言執行者に就任したところ,案の定,もうひとりの相続人から遺留分の主張がなされました。
財産中,自社株の割合が多かったのですが,その評価について,税理士と打合せをして評価額を見直し,相続人間を仲介する形で,双方の間で,事業継続に支障が出ないように遺留分に関する合意を成立させました。
コメント
今回の遺言書については,事業継続の目的を達成できたということで成功の事例と考えていますが,遺言執行は薄氷を踏む想いでした。
遺言については,家族間の確執等から,特定の推定相続人に対して,一切の財産を残さない遺言書の作成の依頼が時々あります。
そのお気持ち自体は理解いたします。ただ,自分の跡継ぎとしたい相続人の方のためにも,それ以外の相続人に対して,ある程度の財産を残すことをお勧めします。
5 特別代理人の選任
相談内容
被相続人はお父様,相続人はお母様と息子2名でしたが,お母様が認知症で,二男が成年後見人を務めていると言うことで,長女から遺産分割の相談がありました。分け方については,概ね決まっているとのことで,遺産分割の手続をされたいとのことでした。
依頼後
当職がお母様の特別代理人として就任することを前提に依頼を受けました。受任後,財産の調査と分割方法についての当事者間の調整を行った後,遺産分割協議書を作成した上で,特別代理人の選任の申立をしました。そして,その後,当職らが遺産分割に伴う預貯金の解約,所有権移転登記等の手続を実施しました。
コメント
とても,スムーズに実現できました。このケースは,相続開始直後にご相談頂いたものであり,当職が遺産分割の調整をできたことも,紛争化しなかったことでもあったと思います。やはり,相続に関しては,可能であれば遺言書の作成がベストで,遺言書なく相続が発生しても,早期のご相談を是非ご検討頂ければと思います。
6 自筆証書遺言があったが,紛争化した事例
相談内容
被相続人はお父様であり,相続人は子ども3名,相談者は長男でした(なお,お母様はかなり前に亡くなっています。)。遺言書があるものの,自筆証書遺言で,遺産についても不動産の分け方しか書かれておらず(他にも金融資産がありました),内容に曖昧な点があり,他の兄弟から遺産分割調停の申立をされてしまったとのことで,調停の対応をして欲しいとのご依頼でした。
依頼後
三者三様の主張だったため,三つ巴の調停となりました。それぞれが,寄与分の主張,特別受益の主張をし,不動産の評価についても争いとなりました。
調停不成立となり,一旦は審判移行しましたが,寄与分,特別受益について,裁判官から見解が示されたことで,話合いが何とか可能になり,最終的には,遺産分割調停が成立しました。
コメント
遺産分割で凡そ考えられる論点を網羅したような事案でした。
せっかく遺言書を作っても,その内容が一部にとどまったり,曖昧だったりすると,結局,紛争を予防できなくなります。文案については,是非ご相談にいらして頂いて,問題がないかどうか確認をして頂くのが一番かと思います。
7 行方不明の相続人と遺産分割
相談内容
お母様が亡くなり(お父様は以前になくなっています。),子ども3人が相続人となったとのことで,その長女からの遺産分割について依頼したいとのご相談があった件です。二男は行方不明,長男は手続に一切協力をしてくれないとのことで,遺産分割の手続をして欲しいとの依頼です。ご依頼者様は,お母様が亡くなられるまでの間,仕事を辞めて4年間介護をしていたとのことで,可能であれば,自分がすべて相続したいとのことでした。
依頼後
行方不明の二男は,ヒアリングの結果,行方不明になってから7年以上が経過しているとのことだったので,当職自身が最終住所地の聞き込み調査を行った上で,失踪宣告の申立てをしました。
その後,他の相続人に連絡をして,ご依頼者様の介護状況について伝え,依頼者の意思を伝えたところ,ハンコ代相当の金額を支払うことで遺産分割協議が成立しました。なお,その後の預貯金の解約や所有権移転登記手続も当職の方で行っています。
コメント
失踪宣告前に他の相続人と接触するかどうかを考えましたが,結局,失踪宣告の手続に関する費用も長女が負担したと言うことを伝えるため,失踪宣告後に通知を送り接触しました。当初は話合いに全く応じないとのことでしたが,その不満は失踪者に関するものだったのでそれをじっくり聞き,長女の献身の介護を伝え,更に,失踪宣告を含めて,すべて手続を長女の方で行ったことを伝えると,素直に当方の分割案に応じて下さいました。
この点は長男様には大変感謝です。
8 事業承継と遺産分割交渉の事例
相談内容
被相続人はお父様(会社経営者)であり,相続人は長男A(依頼者),二男B及び三男C(依頼段階で既に死亡していました。)の子D(甥)の3名でした(なお,お母様はかなり前に亡くなっております。)。相続財産は,会社経営をするために必要な不動産が大半であり,現金は多くはありませんでした。跡継ぎであるAとしては,何とか不動産は死守したいとの考えでした。
なお,Cが生前離婚していたことから,DとAは疎遠な状態であり,AがDに連絡をとっても返答がなく,遺産分割協議が整わないのでどうにかしたいという依頼でした。
依頼後
受任後,Dへ連絡をとり交渉した結果,法定相続分を下回る代償金の支払いで遺産分割協議が成立しました。Aの希望どおり,不動産の処分をすることなく,遺産分割後もAは支障なく会社経営を続けて行くことができました。
コメント
この案件では,AとDが長い間疎遠な状態だったことからDからどのような回答があるか予想がつきませんでした。当初,DはA家族に対してDの両親が離婚していたことから,あまり良い感情を抱いておりませんでした。そこで,第三者として私は,Dに対して,Aが被相続人の介護を一生懸命に行ってきたこと、会社を継ぐ上で不動産は手放せないことを丁寧に伝えていきました。Dとしても,第三者である弁護士からの話であれば,冷静に話を聞くことができるようでした。
第三者である弁護士が介入することで,AもDも冷静に遺産分割協議に臨むことができ,相続人全員にとって最良の結果がだせた成功事例です。
9 緊急の遺言書作成
相談内容
遺言者はお父様であるA,法定相続人は長男Bと長女Cの2名でした。Aは,医師から余命宣告を受けており,同居しているCに財産の大半(不動産及び十数点の骨董品の一部。)を相続させたいと考え,Cに付き添われて遺言公正証書の作成の依頼に訪れました。
依頼後
遺言公正証書作成の流れとしては,資料の収集→弁護士が案文を作成→案文の内容について遺言者に確認をいただく→確認後,案文を公証役場へ提出→遺言公正証書の作成となります。そのため,作成には少なくとも1ヶ月以上の時間が必要となります。しかし,Aの容態は日に日に悪化しており,遺言公正証書の作成まで保たない可能性がありました。そこで,先行して自筆証書遺言の作成を行うことにしました。なお,Aは,十数点の骨董品を所有しており,B及びCにそれぞれ相続させることを希望していました。遺言公正証書作成にあたって,対象となる骨董品の特定を間違いなく行う必要がありました。
コメント
とにかく時間との勝負でしたので,依頼を受けてから1週間後に自筆証書遺言の作成を行い,公証役場にはAの余命がわずかであることを説明し,日程調整の上,自筆証書遺言作成から約2週間後に遺言公正証書を作成することができました。そして,遺言者Aはそれから間もなくお亡くなりになりました。
財産である骨董品に関しては,写真付きの財産目録を作成し自筆証書遺言及び遺言公正証書それぞれに添付することで,対象の特定を行いました。これにより,自筆証書遺言を作成する際,遺言者Aの負担を軽減することができました(従前,財産目録については,遺言者が手書きで作成する必要がありましたが,相続法の改正により,遺言書の署名押印があればパソコンによる財産目録の作成が可能になりました。)。
以上